ショタ・ルスタヴェリ『虎皮の騎士』
まあこんなもんか。やっぱりアリオストは偉大だったんだなあ、というのが私の得た結論なわけだが。
- 作者: ショタ・ルスタヴェリ,袋一平
- 出版社/メーカー: 理論社
- 発売日: 1972
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おん身をたたえるいかなる賛美の歌があろうか?
うたげの主と仰ぐだけで、心浮きたつものを。(17ページ)
グルジアの国民的叙事詩。アラビア王ロステワンの臣下アフタンジルは、王女チナチンに真摯な恋を捧げている。ある日、狩猟に出た王たちの側に、虎の皮の衣をまとった謎の騎士が現れる。アフタンジルはチナチンの命を受けて騎士の正体を探りに出かける――。
250ページと分量は少なめだし、訳文(ロシア語からの重訳であるが)もこなれていて読みやすい。内容としては、西欧の騎士道文学の先駆と見える部分が多い。イタリア・ルネサンス以前の作品として、ヨーロッパ文学史に確固たる地位を占めるというのも納得である。ただ物語として面白いかと言えば、さすがにちょっと、と言わざるを得ないと思う。展開はだいたい予想通りだし、目新しいキャラクターもいない。現代の外国人である我々がぜひ読まねばならない本かというと、それは否だろう。この手の騎士叙事詩なら、アリオストの『狂えるオルランド』のほうが、規模、奇想、人物造型、いずれもずっと優れている。騎士道文学を読もうというなら、私は『狂えるオルランド』を推す。次点で『アーサー王物語』か。
ただ、この作品が12世紀に現れ、その後も文学の伝統が脈々と受け継がれていったのであれば、グルジア文学は相当に豊穣な作品群を備えていそうだ。日本ではグルジアの文学はほんのわずかしか紹介されていないが、今後優れた研究者・翻訳家が現れ、この国の文学作品がどんどん翻訳される、という時代がくることを望む。