書物を積む者はやがて人生を積むだろう

和書を積んだり漢籍を積んだり和ゲーを積んだり洋ゲーを積んだり、蛇や魚を撫でたりする。

ブラウリオ・アレナス『パースの城』

 古書店に注文したフールマノフ『チャパーエフ』がなかなか到着しないので、積読でも消化しておこう。というわけで、またまたゴシックホラーなこの本を読了した。といっても、ゴシックなのは道具立てだけで、中身としては奇想のほうがメイン。

パースの城 (文学の冒険シリーズ)

パースの城 (文学の冒険シリーズ)

「夢の中で歩くのは」と若者はひとりごとを行った。「ひどくくたびれる。こんなことなら、あてもなく歩きまわるこの娘のあとについてゆくより、長椅子の上に寝そべっていたほうがよかったかな」(22ページ)


 ひきこもりがちの青年ダゴベルトは、かつて少年時代をともにすごした幼馴染ベアトリスの死を、新聞の死亡記事によって知る。その夜、ダゴベルトは夢の中、美しい女性に手を引かれ、12世紀の城を訪れる。そこではパース伯爵(城主、ベアトリスの父、本当は技師)、イサベル伯爵夫人(その妻、ベアトリスの母)、そしてダゴベルトにうりふたつの「アジアの皇帝」らが奇妙な愛憎の物語を繰り広げていた――。

 道具立てはまさにゴシックホラーのもの。ただ、夢の話であり、奇怪なイメージが入れ代わり立ち代わり現れるあたりは、やはりシュールレアリスム文学らしい。また登場人物がアーサー王伝説と深く関わる背景を負っていたり、パース伯爵が炎の剣を持っていたりして、ちょっと騎士道文学みたいな印象もある。騎士道、ゴシック、シュールレアルという、三種のジャンルの美味しいとこ取りをした作品と言えるだろう。ただ、エロもグロもあるにはあるがあっさり味で、煽情や猟奇の要素は薄い。南米文学特有のうだるような暑い空気も、この作品からは感じられない。そこらへんは少し物足りないかもしれない。
 さて物語、舞台装置、キャラクターといった作品の外見は面白いが、中身はというと、これがちょっとつかみづらい。パースの城での奇怪な出来事を見るうちに、ダゴベルトは過去の記憶を蘇らせたりするのだが、そこに驚くべき事実が含まれていたりはしないし、幼馴染への感情も最後まで淡いままだ。12世紀の城で起こった物語と、現代のダゴベルト及びパース技師の一家の背景との関連も明らかにされない(におわす程度の記述もない。ない、と判断してもいいかもしれない)。夢の話として、外見だけを楽しめばいい作品なのだろうか。それともやはり何か潜んでいるのか……。