書物を積む者はやがて人生を積むだろう

和書を積んだり漢籍を積んだり和ゲーを積んだり洋ゲーを積んだり、蛇や魚を撫でたりする。

ファルク・リヒター『エレクトロニック・シティ』

 ドイツ現代劇・二冊目。
 リヒターはまだ30代か。リヒターに限らず、論創社のドイツ現代戯曲選には、戦前生まれのベテラン劇作家の作品だけでなく、60年代生まれの若手(?)のものも多く収録されている。中には70年代生まれの作家も。これはいいことだと思うよ。外国の文芸作品は、ある程度名を遂げたベテランのものが入ってくることが多いけど、こういう気鋭の若手を紹介するのも重要な冒険じゃないかと。

エレクトロニック・シティ―おれたちの生き方 (ドイツ現代戯曲選30)

エレクトロニック・シティ―おれたちの生き方 (ドイツ現代戯曲選30)

ここではどんな音もかき消されて、みな自分が生きてることにすら気づいていない、何も感じない、何も聞こえない、だがおれの脳の中で、何かが爆発する、飛行機の墜落みたいに、おれは墜ちる、墜ちる、緊急警報、気をつけろ、もうだめだ、おれは故障だ、もう何もわからない、空港ターミナルからのシグナルはもうキャッチできない、誰もおれを助けない、誰もおれを着陸滑走路に誘導しない、どこへ向かう? どこへ? シグナルはない、おれにはまるっきり理解不能だ、そもそもここの何もかもがどう動いているんだ? さしあたり今はおれのスイッチを切り、再スタートを試みる。タワーですか? メーデー、ハロー? 7 11 14 12 70 3 24 12 誰か聞こえますか、おれの脳は計算する、計算する、あらゆるコード番号をためす、衝突までにはまだ十秒ある、9 8 7 6 5 4 3 2 1 ゼロ ゼロ ゼロ(31ページ)

 地球上のどこかの大都市に入ったビジネスマンのトムは、宿泊先のホテルの部屋番号を忘れてしまい、激しく混乱する。一方、地球の裏側にいる彼の恋人ジョイは、スーパーマーケットのレジ係をしていたものの、レジの故障に悩まされ、絶望する。

 グローバル化と電脳社会がテーマ。トムとジョイの二人を主役にしたドキュメンタリー番組の撮影の様子を交えながら筋が展開するあたりは、メタフィクション風味がけっこう強い。テーマといい、メタフィク趣味といい、まさに現代劇といった趣だ。
 トムとジョイのほか、数名からなるチームが登場し、コーラスをしたり、状況説明をしたり、二人に指示を出したりするのだが、彼らの役割がころころと切り替わるさまは楽しい。このチームは、短いセンテンスを連ねた機関銃のようなセリフまわしとあいまって、劇の筋書きの展開に勢いを与えている。
 上演するときは映像や音楽を交えたりするそうだから、さぞ派手な舞台になるのだろう。劇場で見てみたい作品だ。