ウィリアム・シェイクスピア『トロイラスとクレシダ』
う〜む、なんなんだろうね、これは。奇作? はたまた駄作?
- 作者: ウィリアム・シェイクスピア,小田島雄志
- 出版社/メーカー: 白水社
- 発売日: 1983/10/01
- メディア: 新書
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手に入らないものを実際以上にありがたがるのが男だもの。(第一幕第三場、35ページ)
舞台はトロイ。トロイの王子トロイラスは、ギリシア方に寝返った神官カルカスの娘クレシダに恋する。さしたる困難もなくクレシダと結ばれたトロイラスだが、やがてギリシアとトロイの間の人質交換で、クレシダはギリシア軍の陣地に行ってしまう。ギリシアの将軍ダイアミディーズはクレシダに惚れこみ、これを口説こうとする――。
悲劇とも喜劇ともつかない奇妙な作品。タイトルからしてトロイラスとクレシダの恋の顛末が話の主眼かと思いきや、ギリシア軍の内輪揉めの場面、特に、サボって戦場に来ないアキリーズをどうにかして出てこさせようと、ネスターやユリシーズが画策する、という場面が、作品内のかなりの割合を占めている。このように、筋が二つに分かれてしまっている上に、話の展開もいまひとつ盛り上がりに欠け、結末部分もおさまりが悪い。というわけで、正直なところ、この作品は駄作の部類に入るのではないかと思う。恋が破局しても生き長らえる、というのは、古典悲劇ではまったく見たこともない展開だから、特異な作品であることは確かだが……。
しかしギリシア軍ナンバー2の豪傑であるにもかかわらず、すっかりアホの子扱いされているエージャックス=アイアスは気の毒。『イリアス』中最大の見せ場の一つであるはずの、パトロクレス戦死もさらっと流されていて気の毒。