ローラント・シンメルプフェニヒ『前と後』
ドイツ現代劇・四冊目。
ありふれた日常を描いているのに、なぜか漂う奇妙な空気。うむうむ、この長い名前の劇作家、要注目ですぜ。多作多彩の作家ということだし、今後も翻訳が続いて欲しいもの。
- 作者: ローラントシンメルプフェニヒ,Roland Schimmelpfennig,大塚直
- 出版社/メーカー: 論創社
- 発売日: 2006/07/01
- メディア: 単行本
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人生で一番大切なのはね、ユーモアなのよ。そしてね、自分自身を笑えない人には、ユーモアがないんだよ。(78ページ)
戯曲。51の短い場面からなり、総勢39名もの人物(中には人間でないものもいるが……)が登場して独白や会話を繰り広げる。
短い場面のひとつひとつは、訳者解説にあるとおり、どこかで聞いたようなチープなエピソードからなっているが、個別的には陳腐でも、51もの場面が並べられると、さすがに多彩さを示してきて、こちらを飽きさせないだけのリーダビリティーを保っている。また、日常的な場面が続く中、唐突に「変身を続ける女」だの、「絵の中に入ってしまう男」だの、「異次元から来た生命体」だのが登場するあたり、なかなか油断できない(こういった奇怪な場面こそ、現代人の日常に潜むひずみを現したものなのだろう)。加えて、相互に関係がないかと見えた場面が読んでいるうちに思いがけずつながったりするのも楽しい。
それにしてもこの作品、読んでいてなにやら妙な快感がある。その快感をもたらしているものが何か、私には掴みきれない(上に書いたことだけではないような気がする)。別の作品が邦訳されたら、また読んでみるつもりである。