書物を積む者はやがて人生を積むだろう

和書を積んだり漢籍を積んだり和ゲーを積んだり洋ゲーを積んだり、蛇や魚を撫でたりする。

コードウェイナー・スミス『第81Q戦争』

 SF短篇集積読消化プロジェクト、第一弾。これでコードウェイナー・スミスの翻訳本は全て読了したことになる。

第81Q戦争―人類補完機構 (ハヤカワ文庫SF)

第81Q戦争―人類補完機構 (ハヤカワ文庫SF)

レアードは目をとじたまま星空の観察にはいった。(「マーク・エルフ」、31ページ)


 <人類補完機構>シリーズの短篇9編と、シリーズ外の短篇5編を収めた短篇集。

 「マーク・エルフ」「昼下がりの女王」の二篇には、各作品中に大きな存在感を示し、シリーズの名前にもなっている「人類補完機構」が成立する過程が色彩豊かに描かれている。この二篇を読めただけでもファンとしては大満足だ。それ以外の<補完機構>ものの作品も、例のごとくおおらかで残酷、スミス節とでもいうべきあの文章も健在、オンリーワンたる作家C.スミスの世界を存分に味わうことができる。
 シリーズ外の作品では、中国共産党に入党を希望するも拒否される火星人の話「西欧科学はすばらしい」が楽しい。

 スミスをはじめて読むなら、やはりベスト版短篇集『鼠と竜のゲーム』か長篇『ノーストリリア』がお薦めだが、この本にもスミスの独自の味は充分出ているので、近くの本屋にこの本しか置いてないのであれば、まずはこの本から読んでみるのもいいだろう。どうせ最後にはシリーズを全巻読むことになるのだから。


 ――さて。

 訳者あとがきには、「本書が出たことにより、未訳として残るはキャッシャー・オニール・シリーズのQuest of the Three Worlds だけとなったわけだが、これは全訳してもそんなに厚くない本なので、おそらくは補完機構ものの残り三篇も加えたうえで、近いうちお目にかけることができると思う」とある。が、この本が出てから今年で十年、いまだ『三世界の探索』は出版されていない。

 ――伊藤典夫浅倉久志、そして早川書房よ、俺はあんたたちを信じているぞ。