デイヴィッド・ガーネット『狐になった奥様』
これぞ「佳品」といった色合いの小説だな。佳品という言葉は、小粒という意味も兼ねてしまうのだけれど。
- 作者: ガーネット,David Garnett,安藤貞雄
- 出版社/メーカー: 岩波書店
- 発売日: 2007/06/15
- メディア: 文庫
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不思議な、あるいは超自然的な事件は、さほどまれなものではない。むしろ、その起こり方が不規則なのだ。(冒頭、7ページ)
テブリック夫人シルヴィアは、若く、また美しく上品な女性であったが、夫テブリック氏との散歩の途中、なんの脈絡もなく狐に変身してしまう。テブリック氏は狐になった妻と生活を続けるが、シルヴィアは当初は人間の感性を保っていたものの、時が過ぎるに従って野性に戻っていく。テブリック氏はとまどうが、シルヴィアを愛することは変わりなく――。
理由なく唐突に人外に変身する、という冒頭はカフカの『変身』を彷彿とさせたけれど、読み進めてみると、『変身』とはおよそ方向性の違う小説だった。主題は狐になってしまった妻に対するテブリックの愛情で、その愛情が、人間に対するものから雌狐に対するものへ、ゆっくりと変化していくさまが、緻密に丁寧に描き出されている。
衝撃性にやや欠けるきらいはあるが、まさに佳品といった色合いの作品。