書物を積む者はやがて人生を積むだろう

和書を積んだり漢籍を積んだり和ゲーを積んだり洋ゲーを積んだり、蛇や魚を撫でたりする。

オノレ・ド・バルザック『ウジェニー・グランデ』

 うかうかしているうちに「バルザック幻想・怪奇小説選集」の『呪われた子』も刊行されてしまった(お金がないのでまだ購入していないが)。積読の『従兄ポンス』『「絶対」の探求』『ユルシュール・ミルエ』をできるだけ早く消化して、後ろめたさなく『呪われた子』を買えるようにしたい。

純愛―ウジェニー・グランデ (角川文庫)

純愛―ウジェニー・グランデ (角川文庫)

なんにでも、よく気をつけるようにな。(242ページ)

 ソーミュールのグランデ老人は樽屋から身を起こし、葡萄畑の経営などで成功して一代で巨財を得る。しかしたいへんな守銭奴で、妻、娘、下女ナノンの三人とともに倹約して暮らしている。土地の名士クリュショとデ・グラッサンはその財産を狙い、グランデの娘ウジェニーに子弟を婿入りさせようとたくらむ。そんな中、パリからグランデの甥・シャルルが訪ねてくる。ウジェニーとシャルルは愛し合うようになるが、シャルルの父ギヨーム・グランデは、シャルルも知らぬ間に、破産してピストル自殺を遂げていた――。

 原題はヒロインの名『ウジェニー・グランデ』だが、角川文庫版は『純愛』という訳題をつけている。訳題に相応しく、多分にメロドラマ的な内容を含んではいる。が、愛を描いても、愛より金が物語を引っぱることになるあたり、やはりバルザック的である。登場するキャラクターの中で最も目立っているのは、やはり主人公グランデ老人だろう。彼は行動力と狡智に長けており、小説中を縦横に動き回る姿には存在感がある(守銭奴ぶりを描く段はやや類型的に感じられるが)。そのほかウジェニー、シャルルはもちろん、下女ナノンのような端役にいたるまで、おもしろい登場人物が揃っている。細部からゆっくり説き起こし、怒涛の結末へ導いていく、バルザック的な物語展開も健在。秀作である。