書物を積む者はやがて人生を積むだろう

和書を積んだり漢籍を積んだり和ゲーを積んだり洋ゲーを積んだり、蛇や魚を撫でたりする。

マイクル・ムアコック『永遠の戦士エレコーゼ』全2巻

 『エレコーゼ』も面白いけど、最初は『エルリック』から入ったほうがいいと思う。

黒曜石のなかの不死鳥―永遠の戦士エレコーゼ〈1〉 (ハヤカワ文庫SF)

黒曜石のなかの不死鳥―永遠の戦士エレコーゼ〈1〉 (ハヤカワ文庫SF)

剣のなかの竜―永遠の戦士エレコーゼ〈2〉 (ハヤカワ文庫SF)

剣のなかの竜―永遠の戦士エレコーゼ〈2〉 (ハヤカワ文庫SF)

わたしはまったくかれらの心の産物かもしれないと思う。人類の意志が生み出したものというのだろうか。下手なからくりじかけの主人公かもしれない。わたしはただそれだけのもので、この仕事がすめば、人類の危機意識が薄れるとともに消えてしまうのかもしれない。(「永遠の戦士」、『黒曜石のなかの不死鳥』に収録、249ページ)


 『永遠の戦士』『黒曜石のなかの不死鳥』『剣のなかの竜』の三長篇からなるシリーズ(ハヤカワ文庫新版は最初の二長篇の合本『黒曜石のなかの不死鳥』と『剣のなかの竜』の二分冊)で、ムアコックの「永遠の戦士」ものの中核をなすという。20世紀イギリスの一般市民であったジョン・デイカーは、戦士エレコーゼとして異世界に召喚される。彼はさらに、幾多の戦士の記憶を持ちながら、さまざまな世界に転生して戦いを続ける。

 平凡な現代人が異世界に召喚され英雄として戦うという、もうお馴染みの枠組みを持ちながら、エレコーゼの行動のいちいちが、従来のヒロイックファンタジーにおける英雄趣味の安直さを暴き立てていくところがこのシリーズの面白いところ(アンチ・ヒーローと言われるエルリックも、エレコーゼに比べればずっと正統派に近いヒーローだろうと思う)。とりわけシリーズ初篇『永遠の戦士』でエレコーゼが最後に下す決断には驚愕させられた。物語の主人公にここまで大胆な行動をさせたファンタジーはそうそうあるものではない。

 さて、ムアコックのヒロイックファンタジーの刊行はまだまだ続く。とりあえず今月下旬に『ブラス城年代記』の第三巻が、そして9月からは『永遠の戦士フォン・ベック』が三分冊で出るそうな。ということは『フォン・ベック』の完結が来年1月、で来年3月から『紅衣の公子コルム』が(何分冊か知らないけど)復刊するわけか。『フォン・ベック』は世界幻想文学大賞を受賞しているし、『コルム』もファンの間ではかなり人気が高いらしいので期待期待。ついでに『コーネリアス』とかの新しいシリーズも訳されると嬉しいところだな。井辻先生、なんとかしてください。