書物を積む者はやがて人生を積むだろう

和書を積んだり漢籍を積んだり和ゲーを積んだり洋ゲーを積んだり、蛇や魚を撫でたりする。

ジェイムズ・ティプトリー・ジュニア『輝くもの天より墜ち』

 ティプトリーを読むのははじめて。前々からこの作家のものを何か読もうと思っていたところ、ちょうど未訳長篇が翻訳出版されたので、この機会に試してみた。

 かつて惑星ダミエムでは、ダミエム人の分泌する液体を求めて恐ろしい犯罪が行われた。銀河連邦はダミエム人を保護するため、ダミエムに駐在官を置いていた。一方、戦争のあやまちで破壊されたヴリラコーチャ星のノヴァ前線がダミエムに近づきつつあり、その影響で出現する美しい光を見物するため、十三人がダミエムを訪れる。ところが彼らはそれぞれに訳ありで――。

 舞台はSFだが話はどちらかというとミステリとかサスペンス寄り。前半のゆったりした語り口の中で張り巡らされた伏線が、中盤の山場から後半の結末部分までに鮮やかに組み合わせられていく技巧は見事。そういう積み上げもあってか、山場の部分は本当に盛り上がる。
 そういうわけで、面白いことはまあ、そこそこ面白いのだけれど、「普通によくできたSF」といった印象で、この人独自の凄さのようなものは感じられなかった。幕開け部分と結末部分は、退屈とまでは言わないまでも、ちょっとゆっくりし過ぎであるとも思う。短篇や中篇のほうで名高い作家だそうだから、そういう作品を先に読んでみるべきだったかも。