書物を積む者はやがて人生を積むだろう

和書を積んだり漢籍を積んだり和ゲーを積んだり洋ゲーを積んだり、蛇や魚を撫でたりする。

ジョン・バンヴィル『バーチウッド』

 便宜上イギリス文学にカテゴライズしておくけど、アイルランドの作家。

バーチウッド (ハヤカワepi ブック・プラネット)

バーチウッド (ハヤカワepi ブック・プラネット)

 長い放浪の末、今や廃墟となったバーチウッドに帰ってきたガブリエル・ゴドキンが、記憶を頼りにゴドキン一族とバーチウッドの盛衰の歴史を書き記す。

 訳者の力量もあろうが、非常に端正な文体で書かれており、この文章を読むためだけにでも手に取る価値はある。また、ふつうの小説は日常描写はさらりと、劇的事件は濃い目に描くものだろうが、この作品は日常の瑣末事こそをいちいち丁寧に描き、劇的事件はむしろさらりと流している感じがする。そのために物語に独特の緊張感が生まれている。登場人物の性格描写にも精彩がある。冷笑家の父と諍い好きの祖母の描写はとくに冴える。
 派手な演出や実験的な表現はなく、どちらかといえば地味な作風だが、読者の心にじわじわと効いてくる良作である。