書物を積む者はやがて人生を積むだろう

和書を積んだり漢籍を積んだり和ゲーを積んだり洋ゲーを積んだり、蛇や魚を撫でたりする。

マイクル・ムアコック『軍犬と世界の痛み』

 「永遠の戦士フォン・ベック」の第一巻。第二巻『秋の星ぼしの都』が出るのはどうやら来年になりそう。

地獄には面白いものなどなにもない。(91ページ)

 三十年戦争を時代背景にしたヒロイック・ファンタジー。「軍犬」の異名をとる傭兵隊長ウルリッヒ・フォン・ベックは、マグデブルグ劫略ののち部隊を出奔し、放浪ののち不気味な城にたどり着く。その城でフォン・ベックは堕ちた天使ルシファに会い、「世界の痛みを癒す」聖杯の探索を依頼される。

 アーサー王以来ファンタジーの伝統である聖杯探索の物語だが、ガラハドのような清純無垢の騎士でなく、血も策略も知り尽くした兵士が聖杯探索を命じられるあたりはいかにも現代的。さまざまな示唆や寓意に満ちた作品ゆえ、ためになる読書をしたい向きにもお薦めできる名作。むろん冒険小説としての面白さも折紙つきであり、文章も読んでいて心地良い(硬質な訳文のおかげでもあろう)ため、「知的にして空想あふれる現実逃避(ムアコックの読者あて献辞から)」を求める向きにも相応しい。
 また、作品の独立性も高いため、ムアコックのファンタジーを何か一冊読んでみようという人はこれを選ぶのも一手だと思う。