ロバート・ルイス・スティーヴンスン『新アラビア夜話』
スティーヴンスンなんて読むの何年ぶりだろ。『宝島』も『ジキルとハイド』も小学生時代に読んだきりだな……。
- 作者: ロバート・ルイススティーヴンスン,Robert Louis Stevenson,南條竹則,坂本あおい
- 出版社/メーカー: 光文社
- 発売日: 2007/09/06
- メディア: 文庫
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「わたしも、これで道楽と名のつくものは一通りやってみたんですよ」彼はジェラルディーンの腕に手をおいて、離しつづけた。「しかし、名誉にかけて申し上げるが、どれもこれも、世間で言うほどのものじゃない。人は色恋の遊びをするが、わたしに言わせれば恋愛は強い感情じゃない。強い感情といえば、恐怖です。もし生きる喜びを強烈に味わいたいなら、恐怖を弄ばなければいけない。羨んでください――このわたしを」彼はくすくす笑って、いった。「わたしは臆病者なんですよ!」(「クリームタルトを持った若者の話」、41ページ)
奇怪な自殺クラブとその会長をめぐる話「自殺クラブ」三篇と、世にも見事なダイヤモンドをめぐる「ラージャのダイヤモンド」四篇からなる連作短篇集。ロンドン訪問中のボヘミア王子フロリゼルが活躍して事件を解決する。
アラビア夜話と名づけられているけれど、妖しげな雰囲気はあまりない。なにしろ幻想やエロスの要素が皆無である。むしろ健全なサスペンス活劇といった風合で、よく言えば快活な娯楽作品、悪く言えばはじめからハッピーエンドが約束された予定調和の話といったところ。楽しいことは楽しく読めたが、爆弾は仕込まれていなかった。息抜き読書に適する。
フロリゼル王子は、我々が高貴な人間にはこうあってほしいと思うとおりのキャラクターで、英文学の流れの中ではアーサー王やリチャード獅子心王の末裔だと思う。色々な個性ある悪役が登場しているのはこの作品の長所で、たとえば「自殺クラブ」初篇「クリームタルトを持った若者の話」に登場するマルサスの、病的な快楽を追うキャラクターは面白かった。