書物を積む者はやがて人生を積むだろう

和書を積んだり漢籍を積んだり和ゲーを積んだり洋ゲーを積んだり、蛇や魚を撫でたりする。

キャシー・アッカー『血みどろ臓物ハイスクール』

 読み終わったのは昨日の深夜。学期が始まる前に読みきれてよかった。こんなの電車の中では絶対に読めないからな。

血みどろ臓物ハイスクール

血みどろ臓物ハイスクール

カーター大統領は、オーガズムに達するまで、実に三時間に及ぶ刺激を必要とします。しかもこの刺激は、変態的で残酷でサディスティックで果てしない催し物で構成されていなくてはなりません。それでもなおかつ大抵の場合、それは効を奏しません。これら一連の催し物大会の執行人が早々に逃走するか、気絶するか、死んでしまうからです。そうなった場合のカーター大統領の怒りは凄まじく、口からゴボゴボと泡を噴き出し、癲癇の発作を起こします。癲癇を起こして初めて、彼はオーガズムに達するのです。(196ページ)

 恋人とも思っていた父親に捨てられた十歳の少女ジェニーは、愛を求めてアメリカやエジプトを彷徨する。

 卑猥語を連発するお下劣な文章が基調だが、唐突に硬質な文体に変わってわけのわからない哲学を語りだしたり、便所の落書きめいたイラストやそこそこ凝ったわけのわからない挿絵(作者自筆)が挟まれたり、戯曲体やペルシャ語の詩が現れたり、ホーソーン『緋文字』の「読書感想文」が50ページにわたる分量で盛り込まれたり、とかく破天荒な形式でえらく暴力的な小説である。ヘンテコな挿絵といえばベスター『ゴーレム100』を思い出す(訳者も同じだし)が、『ゴーレム100』に挿入されているイラストはなまじクオリティが高いぶん、インパクトの強さではあの奇書も『血みどろ……』に負けてしまうかもしれない。
 そんなわけで、外見はパンクな作品だが、一人の少女が強い愛を求めてさまようという、青春小説的な中身を持っている。青春小説は嫌いな私だが、この作品は気に入った。凡百の青春小説と違っているのは、自らに対する喜劇的な視線の存在だと思う。自分自身を笑いのめせる人の作品は、まず間違いなく面白いものなのである。
 この作品を「バイオレンスな癒し小説」と形容している文章をどこかで見た気がするが、もっともだ。作品にみなぎる力強さと喜劇精神が伝わって、読んでいて元気になれる小説である。
 ちなみにこんなタイトルだがグロ要素はほとんどない。エロは、うん、セックスシーンは山ほどあるが、あからさますぎて全然エロくない。そのあたりは期待しないほうがよい。


 ――これを読んだら『緋文字』を読みたくなった。そのうち買ってこよう。