書物を積む者はやがて人生を積むだろう

和書を積んだり漢籍を積んだり和ゲーを積んだり洋ゲーを積んだり、蛇や魚を撫でたりする。

たらいまわし本のTB企画第38回 「何か面白い本ない?」という無謀な問いかけに答える

sl-st2007-10-07


たらいまわし本のTB企画第38回 「何か面白い本ない?」という無謀な問いかけに答える ――りつこの読書メモ
 本好きの間では有名らしいけど私は今回はじめて知った、たらいまわし本のTB企画、略してたら本。今回の主催者は「りつこの読書メモ」のりつこさん。
 せっかく知ったからには参加してみよう。このブログの目的は、面白い本を宣伝することだから、あらゆる機会に乗じないとな。

普段本を読まないあの人でも、「登場人物の名前がなかなか覚えられなくて…」と言っているあの人でも、「携帯があれば本なんかいらない」と言っているあの人でも、寝食忘れて読んでしまうぐらい面白い本。本の世界から離れたくない、読み終わりたくないと思うくらいの面白い本。あなたにはそんな本がありませんか?

 こういうことを言われたにも関わらず、キシュ『砂時計』とか、(まあそれほどでなくても)エリクソン『黒い時計の旅』とかペレーヴィン『チャパーエフと空虚』とかホフマン『ブランビラ王女』とかアナトーリイ・キム『リス』とか、こういったタイトルを書ければ私も立派なものだと思う。でも私はそこまで大胆にはなれないので、ここはひとつ、言われたとおりに、本なんか読まないという人でも面白いと感じてくれそうなものを挙げて済ますことにしよう。

秘曲 笑傲江湖〈1〉殺戮の序曲 金庸武侠小説集 (徳間文庫)

秘曲 笑傲江湖〈1〉殺戮の序曲 金庸武侠小説集 (徳間文庫)

 金庸『秘曲 笑傲江湖』七巻
 最初に挙げるべきは当然これだろう。狭義のエンタメ小説のうちではこれに勝る小説を私はいまだ読んだことがない。一癖も二癖もある侠客たちが、正邪入り乱れて相争う江湖の世界が舞台。主人公の令狐冲は、ひょんなことから魔教の長老と関わったために、師からも疑われ、恋人とも心離れ、さまざまな苦難を嘗める――。キャラの濃さとストーリーの圧倒的な勢いの良さで凡百の大衆小説を寄せ付けない、最高の活劇。

白檀の刑〈上〉

白檀の刑〈上〉

 莫言『白檀の刑』二巻
 中国モノ二連続。舞台は清末。山東省高密県に鉄道を敷設しようとするドイツ軍。民衆を組織しそれに抵抗したもと俳優の男に用意された、恐るべき処刑とは。伝説の処刑役人、名を知られた舞台芸人、上の命令と民衆への思いとで揺れる知事。処刑シーンの残酷な描写だけが売りではなく、登場人物それぞれの意地のぶつかり合いが小説世界を熱くしている。傑作だがヤケドには充分注意して一読のこと。

供述によるとペレイラは… (白水Uブックス―海外小説の誘惑)

供述によるとペレイラは… (白水Uブックス―海外小説の誘惑)

 タブッキ『供述によるとペレイラは』
 長いのが二冊続いたのでこれでも。舞台は大戦前夜のリスボン。冴えない新聞記者のペレイラが、ある青年とであったことから危難に巻き込まれていく。タブッキはノスタルジックではあるがつかみどころのない小説を書く人だったが、この作品は物語性が強め。レモネードの飲みすぎでぶくぶくに太ったペレイラが、読むにつけてかっこよく見えてくるから不思議不思議。

めくるめく世界 (文学の冒険シリーズ)

めくるめく世界 (文学の冒険シリーズ)

 アレナス『めくるめく世界』
 個人的に南米の作家でもっとも気に入っているのがキューバレイナルド・アレナス。おそるべきはその想像力。この作品は実在の高僧セルバンド師のめくるめく冒険を幻想色豊かに描いたもの。笑いと苦悩と自由への賛歌。ちなみにヴァージニア・ウルフ『オーランドー』を読んでおくとより楽しめるかも。作者には『夜明け前のセレスティーノ』という作品もあって、これは幼少期の自身の記憶をもとにした小説だが、こちらは幻想の色はいっそう濃くなっていて読んでいて楽しい。

スペイン黄金世紀演劇集

スペイン黄金世紀演劇集

 ロペ・デ・ベーガ『農場の番犬』
 本が入手しにくい(注文すれば手に入るがちと高い)のでお薦めしにくいが、個人的にラブコメディの最高傑作と疑わないのがこの戯曲。自分の秘書に恋した女伯爵が主人公。おおよそ身分違いの恋を扱った作品では、たいてい周囲から入る邪魔をどう克服するかが主題になるのに対し、この作品では女伯爵自身の高貴な者としてのプライドが恋の一番の妨げになるのが面白いところ。従者トリスタンのトリックスターぶりも最高。

 バルザック『ラブイユーズ』
 錚々たる顔ぶれの並ぶ十九世紀フランス作家のうちでも、濃いキャラクターを描く点においてほかを圧倒しているのがバルザック。金持ち老人の遺産をめぐって悪党と悪党が壮絶に相争う。正義対悪の戦いよりも悪対悪のほうが盛り上がるのは物語として当然。そして巨匠の筆にかかればさらに盛り上がるわけで。

ジャン・アヌイ (1) ひばり (ハヤカワ演劇文庫 (11))

ジャン・アヌイ (1) ひばり (ハヤカワ演劇文庫 (11))

 アヌイ『ひばり』
 最近読んだ中ではこれか。ジャンヌ・ダルクものの一幕劇で、戦争シーンはない。構成も面白いけど、それよりも戯曲らしく対話の楽しさで読者を引っ張っていってくれる。短めだから一息で読みきれるので、戯曲を読まない人にもぜひ試して欲しい。

 いいかげんとめどもなくなってきそうなので、とりあえずはこの辺で。できれば次回も参加したい。