書物を積む者はやがて人生を積むだろう

和書を積んだり漢籍を積んだり和ゲーを積んだり洋ゲーを積んだり、蛇や魚を撫でたりする。

神林長平『七胴落とし』

七胴落とし (ハヤカワ文庫 JA 167)

七胴落とし (ハヤカワ文庫 JA 167)

 子供たちはみな精神感応能力(はやい話がテレパス)を持ち、成長とともにそれが消滅する、という設定。主人公の脇田三日月は予備校通い、19歳の誕生日を間近に控え、能力を喪失して大人になるのを怖れていた。あるとき、彼は臨席の麻美に能力を使ったゲームをやらないかと誘われる……。

 青春小説臭がきつすぎて、最初から最後までどうにも好きになれなかった作品だが、面白いところは確かにいろいろあった。言葉の不完全さや現実の不確実さといった問題を、精神感応能力という設定とうまくからめて扱っている。また、三日月と麻美、あるいは他の登場人物たちとの駆け引きの数々には緊張感があり、物語展開も弛緩したところがない。このあたりにも精神感応能力の設定はきっちり生かされている。最後の場面の、三日月と麻美の対決の描写は迫力があるし、タイトルにもなっている名刀「七胴落とし」の妖しげな存在感もすばらしい。
 子供だ大人だと連呼する主人公に終始イライラしっぱなしだったのだが、こういうキャラを笑って見ることができず、腹を立ててしまうあたりは、まだまだ私も文学読みとして青いのかもしれない。
 この小説自体は嫌いだが、この作家をまた読んでみようという気にはなった。