書物を積む者はやがて人生を積むだろう

和書を積んだり漢籍を積んだり和ゲーを積んだり洋ゲーを積んだり、蛇や魚を撫でたりする。

ニコライ・ゴーゴリ『ペテルブルグ物語』

 ロシア幻想文学といえば、ゴーゴリドストエフスキーブルガーコフペレーヴィンなどの現代作家、というラインで語られることが多い。このうちドストエフスキーブルガーコフは大好物で、現代作家にも好きな作家が多い私だが、ゴーゴリについては軽めの喜劇『結婚式』を読んだきりである。いつまでも彼の小説を読まないままではよくあるまい、ということで買って読んだ。

ペテルブルグ物語―ネフスキイ大通り・鼻・外套 (ロシア名作ライブラリー)

ペテルブルグ物語―ネフスキイ大通り・鼻・外套 (ロシア名作ライブラリー)

 20世紀の文学者エイヘンバウムが編纂したゴーゴリの作品集。「ネフスキイ大通り」「鼻」「外套」の三中篇を収める。

 ロシア文学では写実主義の祖とも幻想文学の祖とも仰がれるゴーゴリだが、この作品集を読んでその理由がわかった。都市の描写は細部にいたるまで緻密であるし、下層の人々の性格描写はリアルで、ロシアの官僚システムも辛辣に扱ってあるが、いっぽうでシュールなエピソードや幻想的なシーンにも事欠かない。ユーモラスな語り口もこの本の楽しさの一つで、「鼻」なんかは読んでいるうちに何度かふきだしそうになった。「外套」の結末(外套を奪い去られて死んだ主人公が、幽霊になって人々の外套を奪う)もなんだか印象的だ。時間の円環を多く扱った『学校を出よう』を読んだ直後だったせいか、ひょっとして主人公の外套を奪ったのは主人公じゃないかなどと勘ぐってしまった。
 ただ、ドストエフスキーの饒舌や感情のたかぶりには欠け、シュールさの点ではブルガーコフには及ばない。おそろしく現代的なこの二人の作家に比べると、やや物足りないというか、よくない意味で古典的。それでも平凡な写実作家に比べるとずっと楽しめると思う。