ティルソ・デ・モリーナ『セビーリャの色事師または石の招客』
これもドン・フアンもの。作者のティルソはスペイン戯曲史ではロペ・デ・ベーガとカルデロンを結ぶ存在として重要だという。
- 作者: カルデロンデラバルカ,Calderon・de・la・Barca,岩根圀和,佐竹謙一
- 出版社/メーカー: 国書刊行会
- 発売日: 1994/07
- メディア: 単行本
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俺の心に潜む無上の楽しみは女をだましてポイと捨てることよ。(103ページ)
全三幕。貴族ドン・フアンはさまざまな手練手管を用いて女たちを誘惑し、辱めては捨てることを繰り返す。
ドン・フアンものの嚆矢となる古典戯曲。トルストイの『ドン・ジュアン』からは二世紀以上もさかのぼり、モリエールの『ドン・ジュアン』と比べても数十年古い。が、むしろ読みやすさでは一番かもしれない(訳文が新しいせいでもあるだろうが)。筋の展開は速く、人物が入れ代わり立ち代わり登場して、次々に事件が起こり、場所が転換する。劇場で観るとしたら、大仰なせりふの続くトルストイのドン・ジュアンより、こちらのほうが楽しめるだろうなと思う。だがトルストイのドン・ジュアンに見られるような複雑で矛盾した人物造型はなされておらず、ドン・フアンも脇役たちもキャラクターとしての印象は薄い。そのぶん、ちょっと物足りない。