ヴェルナー・シュヴァープ『魅惑的なアルトゥール・シュニッツラー氏の劇作による魅惑的な輪舞』
これを読むために『輪舞』を読んだようなもの。これでドイツ現代劇は15冊目、ようやく選集の半分を読んだことになる。
魅惑的なアルトゥール・シュニッツラー氏の劇作による魅惑的な輪舞 (ドイツ現代戯曲選)
- 作者: ヴェルナーシュヴァープ,Werner Schwab,寺尾格
- 出版社/メーカー: 論創社
- 発売日: 2006/11
- メディア: 単行本
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「それに、嘘に対する世界大戦ではいつも愛が勝ちを収めるのです。
クソッ」
「え? どうしたの?」
「ガーターなしじゃダメだ」(29ページ)
タイトルが示すとおりシュニッツラーの『輪舞』をもとにした作品。舞台は現代のウィーン。やはり一人ずつ交代しながら十組のカップルを登場させ、性交前後の掛け合いを描いているが、場面はより直截で露悪的なものになっている。
性描写はあからさますぎて、エロスを感じるよりも笑えてくる類のもの。それより注目に値するのは作品の文体だろう。このシュヴァープという人の言語表現は独特で、オーストリアでは彼の作品の言語は「シュヴァープ語」とまで呼ばれているらしい。本作にも「このような法外な言語は、ひとつの言語により、戒厳令下の即決裁判で銃殺刑を言い渡されて当然である」と前置きが書いてあり、実際ページを開くと、いきなり
ねえ、そこのすてきで速そうな車のあなた、今夜、あなたのひとりぼっちの車体を私の身体で磨いて遊ばない?
とくる。全篇こんな調子の奇警な修辞に満ち満ちていて、読んでいて妙に笑える。この奇怪な笑いはシュニッツラーの原作にはないものだ。現代ウィーンの性の問題に興味がなくても、シュヴァープの文体を読むためだけにでもこの作品を読む価値はある。
ところで、訳者解説によると、オーストリアでは教師引率のもと高校生がこの猥褻で露悪的で下品な喜劇を見に来るそうだ。日本での文学教育とのスタンスの違いに思わず苦笑。