書物を積む者はやがて人生を積むだろう

和書を積んだり漢籍を積んだり和ゲーを積んだり洋ゲーを積んだり、蛇や魚を撫でたりする。

白先勇『げつ子』

 「げつ」の字が表記できないので、不恰好だが平仮名で。「薛」の下に「子」をつけた字。

Nieh-Tzu (げっし)  新しい台湾の文学

Nieh-Tzu (げっし)  新しい台湾の文学

我々の王国には闇夜があるだけで、白昼はない。(13ページ)

 職員と同性愛行為をはたらいたために高校から退学になり、父親から放逐された李青は、新公園の同性愛者のコミュニティに身を落ち着け、身体をひさぐなどして生活していた。

 李青による一人称で、彼が台北の街中で体験した出来事、出会った様々な人々などを語り、時には人々の語る往時の話や、家族(とくに弟)との以前の生活の回想などもまじえる。主人公はハイティーンであるが、青春小説とか成長物語というよりは社会小説、風俗小説といったおもむきで、登場人物の数はかなり多く、その性格・背景・暮らし振りもきわめて多様である。
 日常生活を逸脱するような大きな事件や、目をみはるような奇怪な出来事は起きないのだが、読んでいてなぜかまるで退屈しないのは、作品の語り口がうまいのと、登場人物のキャラクターが立っているため、そしてそれらの登場人物の、時には異様な人間関係が、きわめて鮮明に描かれているためだろう。かなり伝奇的な空気をまとった人物も登場してくる(この作品はリアリズム小説だが、人物、人物の関係、人物が持つ小道具などから、時々、なんだか伝奇小説を読んでいるような気分にさせられた)。
 本格的で濃い社会風俗小説、多彩な人間関係がしっかり描かれている小説を読みたい向きにおすすめ。なお同性愛の描写については薄めで、そういう出来事の回数自体も少ないため、不安(もしくは期待)は無用である。