書物を積む者はやがて人生を積むだろう

和書を積んだり漢籍を積んだり和ゲーを積んだり洋ゲーを積んだり、蛇や魚を撫でたりする。

ユージン・オニール『楡の木陰の欲望』

 というわけで戯曲を読んだ。

楡の木陰の欲望 (岩波文庫 赤 325-1)

楡の木陰の欲望 (岩波文庫 赤 325-1)

音楽だって追っ払えねえ――あの何かを。(112ページ)

 舞台は19世紀中ごろのアメリカの農家。農場主イーフレイム・キャボットは、75歳にして新妻アビーを娶る。もとはキャボットの亡き前妻の財産であった農場と家をめぐり、前妻の子エビンとキャボット、アビーの間に諍いが起こるのだが……。

 登場人物はみながみな、現実世界ではお目にかかれないような欲望と激情のばけものである。場面が進むごとに予想の斜め上を行く展開になるのは、キャラクターの感情の振れ幅が尋常じゃないからだろう。どの個所の対話、どの個所の独白も、昂揚(よくも悪くも)したものばかり。あからさまな感情のぶつけ合い、罵り合いは、読み進めるたびにぞくぞくする。オニールはストリンドベリの戯曲を好んだというが、登場人物の性格の常軌を逸した激しさといい、弾丸を乱射するかのような会話の応酬といい、作品の空気には相通じるものがあると思う。
 上品な文学とはとてもいえないが、傑作。