フランツ・クサーファー・クレッツ『衝動』
ドイツ現代劇、21冊目。
- 作者: フランツ・クサーファークレッツ,Franz Xaver Kroetz,三輪玲子
- 出版社/メーカー: 論創社
- 発売日: 2006/05/01
- メディア: 単行本
- クリック: 1回
- この商品を含むブログ (1件) を見る
あいつには吹き出物がある、がしかし俺はバカ言ってる。あいつは監獄にいた、がしかし俺はバカ言ってる。あいつは薬をがぶ飲みしなきゃならん、がしかし俺はバカ言ってる。あんなふうで人生がつつがなく終わっていくと思うか? ありがたく思うんだな、考える人間がおまえのそばについてるってことを。(35ページ)
露出症のため服役していたフリッツは、釈放されて姉ヒルデとその夫オットーのもとに身を寄せる。フリッツをめぐって、オットー夫妻、二人のもとで働く冴えない女ミッツィらの関係が混乱し始める。
平穏な家族・社会が、異物の闖入によって崩壊していく、というお馴染みのストーリーだが、傍目から見るとその異物こそが一番まともで大人しく、また他の登場人物に対して積極的な行動を起こさないにもかかわらず、彼の存在がオキシドールに放り込まれた二酸化マンガンのごとく作用して、他の人物たちのほうがおかしくなって自壊していくところがこの作品の面白さだろう。終盤の場面のオットー、ヒルデ、ミッツィの壊れっぷりは尋常ではなく、彼らのどぎつい会話はにやけ笑いを誘う。
解説によると、クレッツはドイツでの作品の上演回数がブレヒトに次ぐ劇作家だというから、たいへんな大物だ。作風もかなり変化しているというから、これ以外の作品も読んでみたいもの。