書物を積む者はやがて人生を積むだろう

和書を積んだり漢籍を積んだり和ゲーを積んだり洋ゲーを積んだり、蛇や魚を撫でたりする。

ゲッツ・フォン・ベルリヒンゲン『鉄腕ゲッツ行状記』

鉄腕ゲッツ行状記―ある盗賊騎士の回想録

鉄腕ゲッツ行状記―ある盗賊騎士の回想録

 16世紀神聖ローマ帝国の騎士ゲッツ・フォン・ベルリヒンゲンの回想録。戦争に従軍したときの話や、都市や貴族を相手取ったフェーデ(私闘)の話、農民戦争で農民側の隊長として担ぎ出された話などが語られる。

 ゲーテの史劇の題材にもなっているドイツのヒーローの記録であり、かつ「鉄腕の盗賊騎士」というロマンティックな肩書きも持っている人物の話だから、さぞかし小説のようなエピソードに満ちてるんだろうと予想していたが、そこはノンフィクション、成功するにしろ失敗するにしろ、そうそう華々しく展開したりはしない。同僚や部下(主に傭兵)のドジによって尻切れトンボに終わる計画も数知れず。特に多くの分量が割かれているのはフェーデの話で、これは言いがかりをつけて戦いを宣告し、相手方の人物を襲って身代金をせしめたあと、和解して調停金をいただく、というもの。当時、都市から都市へ移動することがいかに危険だったかよくわかって面白い。
 全篇ほとんどが公私にわたる戦いの話で、日常生活の様子なんかはよくわからない。
 文学作品として見たときの面白さは、やはり暢達な語り口、だろうかな。同時代の人間相手に語っているものなので、ドイツ中世史の知識がろくにない私にはいささかわかりにくい個所もあったが、丁寧な注釈のおかげでなんとかついていけた。