フーゴー・フォン・ホフマンスタール『チャンドス卿の手紙』
- 作者: ホフマンスタール,桧山哲彦
- 出版社/メーカー: 岩波書店
- 発売日: 1991/01/16
- メディア: 文庫
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端正ながらも漠然と不安・不穏な感じをかもしだす文体と作風が魅力……ではあるものの、小説作品はともかくそれ以外の作品では、とかくつかみどころが分からなくて、なかなか読み進めないうちに集中力が切れてしまい、とうとう挫折してしまった。しかし巻頭に置かれている「第六七二夜のメルヘン」など四篇の小説作品はいずれも非常に面白く読めたし、傑作だと思う。
とりわけ「第六七二夜のメルヘン」は、甘い退廃と倦怠感の漂うゆったりした語り出しと、わけのわからない感情に突き動かされて破局に至るクライマックス近くの急展開の書きっぷりの対比がうまく、印象的な作品だった。短篇小説としては最高傑作の部類だと思う。
「騎兵物語」の時間が停止しているかのような描写も、かなり不気味ですばらしい。また「バッソンピエール元帥の体験」は、いかにもフランスが舞台の情事奇譚といった感じでなかなかのものだし、男装少女のエキセントリックな恋情を描いた「ルツィドール」の愛らしさも絶品である。
きちんと読めなかった紀行などについては、そのうち元気なときにでも再読したい。