デレク・ウォルコット『オデッセイ』
もう6月も20日だというのに、これで今月二冊目だぜ。しかも消化不良気味。作者はセントルシアの人だが、英語圏なので南米文学ではなくナイポールと同じくイギリス文学カテゴリに入れておこう。
- 作者: デレクウォルコット,Derek Walcott,谷口ちかえ
- 出版社/メーカー: 国書刊行会
- 発売日: 2008/06/01
- メディア: 単行本
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「ところで、おまえさんはどこから来たのかね、お若いの?」
「わたしは誰もが来るところから来たのだ。つまり故郷から」
「じゃ、それはどこだね? それはどこなのかと聞いている」
(……)
「では、あなたはどこから?」
「同じく、ふるさとから」
「それじゃあ、われわれは同郷の士だ。それは素晴らしい」(190ページ)
『オデュッセイア』の戯曲だが、オデュッセウスがさまよう海や島々のイメージをカリブふうに変化させている。
ストーリーラインはほぼ原作どおりだが、ただのドラマ化ではなく、せりふ回しや話の進め方など随所に独自性がある。同じ詩人とはいえ、ホメロスの言葉の重苦しい感じとは対照的に、ウォルコットの言葉は明るく力強い。進行役にビリー・ブルーという黒人の歌手を配しているあたりも現代的。
ただ、カリブの植民地としての歴史を踏まえた場面も多く、そのあたりの事情に暗い身としては、いまひとつしっくりとつかめない個所があったのは残念。
作者にはホメロスを踏まえつつももっと直截にカリブを描いた『オメロス』という叙事詩作品もあるということで、できればそちらも翻訳されてほしいと思う。