書物を積む者はやがて人生を積むだろう

和書を積んだり漢籍を積んだり和ゲーを積んだり洋ゲーを積んだり、蛇や魚を撫でたりする。

アンナ・カヴァン『氷』

氷

これは今までとはまったく異なった形で進行している現実なのだ。(215ページ)

 異常な気候変動のために全世界が氷に覆われようとしている中、語り手「私」がかつて恋し、いまは人妻となっている少女が行方を絶ってしまう。少女を追う「私」は、やがて彼女がある小国の独裁者「長官」のもとにいることを突き止める。

 幻想小説、終末SF、それとも21歳合法ロリータを追いかけ回す変態小説、かな? 破滅的かつ荘重なビジョンが重々しい文章で語られる一方、少女に対するサディズム妄想なんかにも同じくらいの文章量が割り当てられているのがなんだかかなり印象に残ってしまった。語り手に対して妙にとげとげしい態度をとる少女については、読んでる途中、こいつはひょっとしてツンデレじゃないかと思ってたら案の定だったし、主人公と長官(こっちはさしずめデレツンか?)の奇妙な友情関係も面白い。まあ、そういう卑近な読み方でも楽しめる本ではある。
 もちろん文学作品としても一流なんだろう。現実の描写をしていたと思えばいつの間にか主人公の意識や妄想の世界に入っている書き方は至妙で、一人称で記されている作品ながら、主人公の内面描写と外部の客観的描写とがうまくつりあっている。捕まえたと思えば手放してしまう少女と主人公との距離感や、ひしひしと迫ってくる氷の存在感もいい。