董若雨『鏡の国の孫悟空』
- 作者: 董若雨,荒井健,大平桂一
- 出版社/メーカー: 平凡社
- 発売日: 2002/03/01
- メディア: 単行本
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天は疥癬が出て、人に背中を掻かせようってのかしら。(43ページ)
原題『西遊補』。『西遊記』第六十一回のあとに追加されたエピソードという体裁をとる、『西遊記』続書のひとつ。孫悟空はひょんなことから鯖魚精に惑わされ、青青世界に入り込む。悟空は鯖魚の世界をさまよい、あるときは虞美人と化して項羽とねんごろになり、あるときは閻魔大王になって秦檜の裁判をする。
再読。一発ネタ的雰囲気の漂う邦題や、『西遊記』の二次創作という体裁から、ゲテモノ、地雷作品と見なされそうだが、正真正銘の古典奇想小説の傑作である。ただ中国小説史のみにとどまらず、世界幻想文学史に燦然たる地位を占めるに足る作品と言っていい。
その奇想は人を驚かすに足り、、その諧謔精神は卓抜である。といったのは私ではなくて魯迅である(『中国小説史略』。いったい魯迅というひとは、新文学の担い手ということもあって、古典小説にはかなり辛い採点をしがちなのだが、この『西遊補』はそうとう高く評価している)。いやまったく、脈絡から解放された奇抜な展開の数々には読んでいて目が丸くなるし、諷刺もよく効いている。未来世界での悟空と秦檜の対話などは読んでいて笑いが止まらなかった。硬質・難解に見えてときどき妙に肩の力の抜けた文体も楽しい。
四大奇書はもとより、一世を風靡した(?)『封神演義』や武侠の元祖たる『三侠五義』に比べてもかなり知名度が落ちるような気がするが、もっと評価されるべきである。