書物を積む者はやがて人生を積むだろう

和書を積んだり漢籍を積んだり和ゲーを積んだり洋ゲーを積んだり、蛇や魚を撫でたりする。

ピエール・クリスタン『着飾った捕食家たち』

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ぼくら動物の未来を受け継ぐのはきみだ、きみこそふさわしい(377ページ)

 フランスのSF、という珍しさにひかれて、サンリオSF文庫に入ってるやつをちまちま集めてきた。とりあえず今まで読んだやつはどれもなかなかいい本だったが(『この狂乱するサーカス』は読んでる途中はいまいちだったけど、あれ読んだのは私自身の体調がよくないときだったので、いまいちなのは本ではなく読者だったかもしれない)、ここへきてとうとう大当たりを引き当てた。それがこれ。
 内容は人類文化の崩壊から再生に至るまでの未来史を描いた連作短篇集で。大学講師の視点を通して末期的な都市の状況を描く「その日もまた、86511人が悪性アノミーの餌食となった」、崩壊が確定的となった世界での一家族の破滅を描く「そして、円かなる一家団欒の夕餉に……」、わずかに生き残った閉鎖的な施設に、外の世界から二人の男がやってくる「そう、二人の名はクロックバトラーとラカルスト……」、地下に再生した人類の異形の都市と、そこでの陰謀を描く「鼠どもが太陽を見たいと思ったのは、そのときだった……」、男が谷の村で驚くべき光景を眼にする「ああしかし、やはり緑だった、他人の谷は……」、巨大機械マクロラブに調整されている人類世界を両性具有の音楽家の視点で描く「そして、ブルジョワたちが工場に行ったとき……」、再生した世界に生きる人類の異様を描いた「そして、ついに、着飾った捕食家たちの時代がやってきた……」の七編。
 数巻の長篇シリーズにできそうなくらいアイディアがあふれているが、それを一巻の短篇集に凝縮しているので、とうぜんかなり濃い中身になっている。文明が崩壊していく様子や、再生した世界の異形の姿の描写は非常に鮮烈で、しかもきわめて残酷な場面が続くのに、読眼を逸らさせないだけの切迫感、リアリティがあった。結末にしても、予想の斜め上を行くグロテスクなものばかりだが、それを以って嫌な本とか低劣な本とか言って退けられないくらい説得力を持っている。特に最終編「着飾った捕食家たちの時代がやってきた」のオチは非常に絶望的でいい。なるほどね、着飾った捕食家ってのはそれのことだったのか。なんか手塚治虫火の鳥』未来編の結末を連想してしまった。円環。
 作者は漫画の原作などもやっているそうで、ビジュアル描写は上にも書いたようにたいへん鮮烈。裏表紙では「凶々しくも美しい」と紹介してある。美しいかどうかはともかく、眼に焼きつくことは確か。あと、表紙カバーのイラストもグロくていい出来だと思う。
 古本屋での相場は2000円くらい? 充分その価値はある。というか、これは絶版になっているのが惜しい本なので、早川なり創元なりで復刊してほしい。