書物を積む者はやがて人生を積むだろう

和書を積んだり漢籍を積んだり和ゲーを積んだり洋ゲーを積んだり、蛇や魚を撫でたりする。

クラスナホルカイ・ラースロー『北は山、南は湖、西は道、東は川』

北は山、南は湖、西は道、東は川

北は山、南は湖、西は道、東は川

 源氏の孫君は、『名庭百選』を見、最後の「隠された庭」に惹きつけられてから、千年たった今でもその庭を探し続けていた。彼は耳にした情報を望みに、供の者たちの目を逃れ一人で京都のある寺を訪れるのだが……。

 なんとも不思議な感触の作品。読点読点で延々うねるように、時には数ページにわたって一文が続くという文体もさることながら、平安時代以来千年間、ひとつの庭を探し続ける光源氏の孫(ひどい目眩に悩まされている)に、彼を探す八人の酩酊したお供、という登場人物も奇怪。それよりもっと不思議なのが舞台となる寺院で、誰もおらず、ところどころが破壊されている、しかし住職の部屋などにはほんの少し前まで人がいた形跡がある、俗気を離れた空間のように見えて、住職の部屋には洋酒のビンが散乱している。ほとんどの文章はこの寺院の様子の細密な描写に割かれており、奇妙な小説空間が作り上げられている。
 140ページほどの短い作品だが、文体的にも内容的にも決して読みやすい小説ではなかった。源氏の孫君や寺院にまつわる謎は最後まで解明されないし、その謎が提示されるのも小説の半分ほど過ぎたところでようやくといったところ(だから特に半分あたりまでは特に読むのに苦労した)。どうにもうまく消化できていないのだが、しかし面白かったことは確かだし、普通の小説では味わえない読書体験ができる本である。ネットではあまり話題になっていないが、他の人の感想も聞いてみたいところ。
 『源氏物語』は読んでいなくても問題ない。
 訳者あとがきを読んだ感じだと、作者のほかの作品『抵抗の憂鬱』『戦争と戦争』なども面白そうなので、翻訳されるといいと思う。