テッフィ『魔女物語』
- 作者: テッフィ,田辺佐保子
- 出版社/メーカー: 群像社
- 発売日: 2008/09
- メディア: 単行本
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「わたしはぜんぜん神経質になんかなっちゃいませんわよ」わたしは言い返してやったわ。「わたしはどっかの迷信深いおばさんなんかじゃありません、インテリの女ですよ。でもばあやが、何がなんでもここにはいたくないって言いますし、わたしはばあやのことを大切に思っているのよ、そうなると、わたしは出かけるしかないわねえ。ところで食堂のドアは当分の間、鍵を掛けておく方がいいかも……わたしはもちろん、怖くなんかないわよ……だけど……」(33ページ)
20世紀初頭ロシアの女流作家の短編集。「魔女」「吸血鬼」「ドモヴォイ」など15編からなる。
作品はどれも近現代を舞台にしている。登場人物たちの日常生活のうちに怪異な出来事が起き、それに不思議な人物が絡んできて、どうもそいつは人間じゃなく妖怪らしい、ということになる。そうとは言い切れない、普通の人間かもしれない、という含みを持たせつつ物語を閉じる。というのがだいたいの内容。妖怪、怪異が主役なのではなく、それらが登場人物の心身に起きた動揺や事件にまつわって影を表してくるのが特徴で、深刻な事件も大仰になりすぎず、あっさりした語り口で語るのが好印象。ロシア人の田舎や都会での生活ぶりがさらっと嫌味のない筆で書かれているところもよい。
作品集のうちいちばん長い「妖犬」は、革命前夜のすさんだ女の子を主人公にしていて、ほかの話の行儀のいい語り手たちとはいっぷう変わっていて面白かった。
これから読む人の意欲を喚起するために付け足しておくと、巻頭の作「魔女」の主人公はドジっ子メイドである。