書物を積む者はやがて人生を積むだろう

和書を積んだり漢籍を積んだり和ゲーを積んだり洋ゲーを積んだり、蛇や魚を撫でたりする。

金庸『飛狐外伝』

飛狐外伝〈1〉風雨追跡行 (徳間文庫)

飛狐外伝〈1〉風雨追跡行 (徳間文庫)

 『雪山飛狐』の外伝(前伝)として書かれた作品。『雪山飛狐』後半に登場する侠客・胡斐の少年・青年時代が描かれる。胡斐は広東の悪漢・鳳天南を追ううち、乾隆帝の私生児・福康安が武林全体に対したくらむ陰謀に巻き込まれていく。

 『雪山飛狐』が金庸にしては珍しい展開の異色作だったのに比べると、前伝たるこちら『飛狐外伝』はいろいろな意味でいつもの金庸ツンデレな謎の美少女が登場するところとか)。ただ金庸自身、「武侠」の「侠」の部分を強調して書いてみたと言っている通り、義とか恩に報いる行動に重点が置かれているような気がする。筋書きの中心である鳳天南追跡も、前からの知り合いでもなんでもない農民に対する義理からだし。
 読み始めたら最後、巻末まで一息に連れて行かれる、その点でもいつもの金庸。各人の思惑がからまってぐんぐん展開していくストーリー。キャラクターなら苗人鳳の大物っぷりに福康安の奸悪ぶり、好一対な袁紫衣・程霊素の二人のヒロイン。そして三巻目の天下掌門人大会は期待にそぐわぬ盛り上がりを見せる。