書物を積む者はやがて人生を積むだろう

和書を積んだり漢籍を積んだり和ゲーを積んだり洋ゲーを積んだり、蛇や魚を撫でたりする。

エミール・ゾラ『ごった煮』

ごった煮 (ルーゴン・マッカール叢書)

ごった煮 (ルーゴン・マッカール叢書)

この家は見世物小屋で、お前たちは奥様とすましこんでいるが、尻軽の淫売女じゃないか!(490ページ)

 野心をいだいてパリに上ったオクターヴ・ムーレは、ヴァブルのアパートに居を構える。このアパートには家主のヴァブル一家のほか、ガラス会社の会計係ジョスランの一家、建築家カンパルドンの一家、公務員のピション夫婦らが暮らしていた。健全をうたうこのアパートの人々の退廃した内情を、オクターヴは次第に知っていく。

 中流ブルジョワジーとその下女たちの退廃、虚栄、偽善を辛辣に描いた作品で、叢書中では珍しくかなりコメディー寄りな作品(相当黒いけど)。帯に「パリ高級アパルトマンの男と女が織りなす熾烈なセックス・ライフ!」とか書いてあって、恥ずかしいからやめてほしいと買うときは思ったのだが、読んでみたらその通りの内容だった。結婚相手を求めて社交界で媚態をふりまく女、ブルジョワ女に嫌気が差してその女中を食いまくる男、息子のような年齢の愛人を手放さすまいと狂乱する老婦人、外に愛人を作る夫に、夫を愛してないからそのことにほっとする妻。子供を世間から隔離して清潔に育てようとしている両親、しかし子供は女中から性教育を受けていたり。なんとも猥雑な作品だが、だからこそ上品な小説が持つことのできない力強さ、読者を放さない吸引力を持っていると思う
 群像劇的な作品ではあるが、いちおうジョスラン家の次女ベルトの結婚とその破綻――彼女が夫オーギュストとの不和からオクターヴとの情事に走るが、やがて露見する――が話の筋の中心になっている。ベルトと、彼女の母ジョスラン夫人の虚栄を描く筆致は作品中でもとりわけ生彩を放っている。