書物を積む者はやがて人生を積むだろう

和書を積んだり漢籍を積んだり和ゲーを積んだり洋ゲーを積んだり、蛇や魚を撫でたりする。

モリエール『いやいやながら医者にされ』

あなたはわれわれほど物知りである必要はない。(54ページ)

 怠惰で、しかも何かにつけて自分を殴る夫スガナレルに腹を立てたマルチーヌは、医者を探している二人の男に、夫を医者として推薦する。夫がこれで痛い目を見るだろうというわけである。かくてジェロント氏のところへ連れて行かれたスガナレルは、突然唖になったというジェロントの娘リュサンドを診察するのだが、リュサンドは仮病だった。

 医者嫌いモリエールによる医者ネタのファルス。同じ医者ネタの『病は気から』と比べるとお気楽もお気楽、というか、実にくだらない作品に仕上がっていて、たいへん楽しめる。本格的で鋭い風刺喜劇を求める向きには、あまりに内容がないので物足りないだろうけれども、あくまでライトで俗なものだと割り切って読めばよいかと思う。目を引く警句もところどころにはあることでもあるし。4、50分もあれば読み終わるので暇つぶしに最適。

 ところでこの本、出版は1962年なのだけれど、訳者解説で気になったのが一点。従来『心ならずも医者にされ』という邦題がついていたのを『いやいやながら医者にされ』に改めた、それは「心ならずも」という表現が文語的で硬くて若い読者に受け入れられるか不安だったからなのだそうだ。「心ならずも」……気にするほど文語的か? しかも出版時の若い読者というと、今では60代くらいになっている人たちだよなあ。そういう世代の人たちに、こういう配慮が必要(と訳者の鈴木先生は考えた)というのはちょっと興味深い。