書物を積む者はやがて人生を積むだろう

和書を積んだり漢籍を積んだり和ゲーを積んだり洋ゲーを積んだり、蛇や魚を撫でたりする。

マリヴォー『贋の侍女 愛の勝利』

贋の侍女・愛の勝利 (岩波文庫)

贋の侍女・愛の勝利 (岩波文庫)

あなたは高くつきすぎます。同じ値段で、もっといいのを手に入れるわ。(『贋の侍女』、38ページ)

 「贋の侍女」は、義兄の持ち込んだ縁談に不安をいだいた少女が、相手の男レリオの人柄を探るため、男装してレリオに近づいたところ、レリオは情人の伯爵夫人と離別するための画策中だった、という話。「愛の勝利」は、王女レオニードが、かつて彼女の伯父によって放逐された本来の王の遺児アジズに王位を返すため、彼をかくまっている哲学者エルモクラートのもとを男装して訪れる、という話。

 男装のヒロインが活躍するコメディということで、フランスの古典劇とかよりはシェイクスピアの喜劇に近い雰囲気。ただし二作品とも、女の子が男装しているせいでさまざまな混乱なり事件なりが発生するというよりは、彼女が自らの計画に沿って能動的に事件や混乱を発生させる話になっている。男も女も、登場人物全てを掌の上で踊らせるヒロインの超人的活躍が楽しい。ただし幕切れは(喜劇としては)絶妙に後味が悪く、ただのコメディで終わってはしまわない。
 訳注・解説はかなりしっかりした内容になっており、おかげで二つの作品を読んでなぜ違和感が生じたのかよく分かった。