書物を積む者はやがて人生を積むだろう

和書を積んだり漢籍を積んだり和ゲーを積んだり洋ゲーを積んだり、蛇や魚を撫でたりする。

黄耐庵『嶺南逸史』

中国に来ているわけだが。

でも、やる事は一緒だぜ?(『東方花映塚』)

というわけで。

嶺南逸史
黄耐庵 著
中英 中雄 校点
百花文芸出版社、1995年

明代の広東を舞台にした作品。才子黄逢玉と、張貴児・李小環・梅映雪・謝金蓮の四人の美少女の離合と苦難、少女たちの超人的な知略と武芸を描く。

 清代初めに才子と佳人の悲観離合を描く作品が盛んに作られたが、のちしだいに飽きられてきたため、作家たちは新たな境地を見出すためにさまざまな工夫をした。中でも武術・戦争の要素を取り入れた作品を英雄児女小説と呼ぶのだが、これもその一つ。
 筋運びの上手さ複雑さといい、キャラ立ての見事さといい、今なおエンタメとして読むに堪える小説。特にヒロインたちのキャラは、知略と度胸に富む張貴児、武芸も人柄も完璧な李小環、武芸には長けるが気質に難のある梅映雪、分別があり思慮深い謝金蓮と、しっかり書き分けられている。
 ストーリーにはシリアスありコメディあり、三国志のパロディも随所に散りばめられており、三国志ファンならにやにやできる場所が多い。
 もっとも、ストーリーで読ませる作品なので、これで通読三度目の私は、初読のときほどは楽しめなかった。まあ、新たな発見がなかったわけではないけれど。
残念ながら小説史の鬱蒼たる林の中に埋もれてしまっているけれど、ぜひもっと知られて欲しいと思う。