余華『在細雨中呼喊』
史鉄生はどうしたかって? まあまあ、ゆっくり行こうじゃない。
在細雨中呼喊
余華 著
上海文芸出版社
2004年1月
あれが、私の父が最も威風凛々としていた時点だった。彼は警察に大声で言った。
「あんたらが探しているのは誰かね?」彼は胸を張って言った。「わしは英雄の父だ」
それから孫光平を指して「こやつは英雄の兄だ」さらに私の母を指して「こやつは英雄の母だ」父はかたわらに立っていた私を見ることは見たが、何も言わなかった。「あんたらは誰を探しているんだ?」
警察は父の話はまったく面白がらず、ただ冷たく言った。
「孫広才というのは誰だ?」
父は大声を上げた。「わしだ」
警察は彼に告げた。「われわれといっしょに来てもらおう」
父は中山服を着た人がやってくるのを期待していたが、最後にやってきたのは警官の制服を着た人であった。(45ページ)
成年になった語り手の孫光林が、幼少時代の出来事を回想する。彼は彼自身と父や兄弟、祖父、友人、養父母らにまつわる記憶を、順序にこだわらず語っていく。
余華の第一長編。時系列の順序はばらばらであるが、基本的には写実的に書かれた作品。ただし、作者は「これは記憶に関する小説である」と言ってはいるが、孫光林は自身がそこにいなかった出来事をも語る(自身が生まれる前の祖父の話や、自身が養子に出された後の実家の話など)。
この人は最も悲惨な場面を最も喜劇的に書く。たとえば子供を助けて溺死した息子・孫光明を誇るあまりとっぴな行動に出る孫広才を語る段や、語り手の祖父・孫有元がその父の硬直遺体を武器に大暴れするくだりなんかは、滑稽きわまってかなり笑えるのだけれども、同時にかなり衝撃的でもある。このあたりは最新長編『兄弟』にも通じるところがある。まあ、本作はさすがに『兄弟』のスケールやダイナミックさには及んでいないと思うが、冴えた描写もかなり見られたので満足だ。