書物を積む者はやがて人生を積むだろう

和書を積んだり漢籍を積んだり和ゲーを積んだり洋ゲーを積んだり、蛇や魚を撫でたりする。

雲封山人『鉄花仙史』

鉄花仙史 明末清初小説選刊
雲封山人 著  沈錫麟 校点
春風文芸出版社
1985年9月

 名士・蔡其志は一人娘の蔡若蘭を親友王悦の子・王儒珍と婚約させるが、王悦の死後貧窮した儒珍を見て、婚約を後悔する。それを見た夏元虚という者が仲人を立てて若蘭に結婚を申し込み、其志もその気になるのだが、儒珍の友人・陳秋麟は儒珍のため、元虚と若蘭の話を破談にしようと、一計をもくろんで自身も若蘭との婚姻を申し込む。ところが秋麟の計略はうまくいかず、若蘭は儒珍以外との結婚を拒んで逃走してしまう。逃走した若蘭を保護したのは、儒珍と秋麟の親友である蘇紫宸の叔父・蘇誠斉であった。いっぽう秋麟は、夏元虚の妹・夏瑶枝に心惹かれる。瑶枝は元虚に欺かれて都に送られてしまうが、その途中、船が転覆し、彼女もまた蘇誠斉に保護される。

 いわゆる「才子佳人小説」に分類される作品だが、その流行も下火になったころに創作されたものなので、目新しさを加えようと、ストーリーにかなり凝っている。筋書きは複雑で、偶然というかご都合主義な展開にかなり頼っているとはいえ、王儒珍・陳秋麟・蘇紫宸の三人の主人公と、蔡若蘭・夏瑶枝という二人のヒロイン、それに敵役の夏元虚がそれぞれに考え、さまざまに出会ったりすれ違ったりするさまは、見ていてかなりもどかしく、つい先へ先へと読み進めてしまう。
 魯迅は『中国小説史略』の中でこの作品を、「文章は冴えず、筋書きは複雑すぎ、また戦争や仙人のことを織り交ぜていて、人情小説の範疇から出てしまっている」と批判した。そのためかそうでないかは知らないが、同じ才子佳人ものの小説、たとえば『玉嬌梨』や『好逑伝』と比べても、中国でも日本でも知名度はほとんどないようである。
 いや、しかし、この本はなかなか良いと思うんだけどな。文章は確かに生硬かもしれないが、読みにくくはないし、ストーリーはむしろこれくらい複雑なほうが楽しい。
 まあ再読に耐えるかと聞かれると、さすがに厳しいかなと答えるけれど。