書物を積む者はやがて人生を積むだろう

和書を積んだり漢籍を積んだり和ゲーを積んだり洋ゲーを積んだり、蛇や魚を撫でたりする。

藍霄『錯誤配置』

錯誤配置 アジア本格リーグ1

錯誤配置 アジア本格リーグ1

そこで藍霄先生、あなたですよ。おめでとうございます。その役を演じるにもっともふさわしい御方として、私はあなたを選ばせていただきました。(50ページ)

 精神科医でミステリー作家の語り手・藍霄のもとに、王明億なる人物からメールが届く。そこでは周りの人間が自分を忘れてしまったということと、自分が自分であることの証明として過去の迷宮入り事件の自白がつづられていた。それからしばらくして、王明億と見られる人物の遺体が見つかる。遺体からは、ほぼメールと同じ内容の、藍霄あての遺書が発見された。

 うーむ、これはあんまり好みではないかなあ。
 不安感が記されていたと思えば一転、狂気と悪意が漂いだす最初のメールの文章は出色だが、そのあとがどうにもかったるい。語り手の藍霄は弱気なだけだし、狂言回しの李君は上滑りしてるし(「滑ってるキャラ」として描かれているのは分かるが、意図以上に滑ってる)、探偵役の秦博士も……もひとつ無茶をしてくれないので、思ったより面白みがない。犯人は、(ややネタバレ注意)文章では饒舌だが現実では控えめなタイプ、そのせいで主人公たちと対決しても盛り上がらない。
 主人公がミステリー作家ということで、作中ジャンル語りがところどころに出てくるのだが、その中に「本格推理小説は、トリックさえしっかりしていれば人物描写は不要」(うろおぼえ)のような一句がある。小説人物の台詞を作者の思想と同一視するのは問題かもしれないが、作者がもし本気でそう思ってるなら、そんなジャンルは私には縁がなさそうだ。


 翻訳がこなれすぎて、軽く見えるのもマイナス。外国の小説、という雰囲気も全然なくて、「台湾」を感じさせるところが中華民国暦しかなかった。わざわざ新シリーズを立ち上げなくても、講談社ノベルズで出してしまえば良かったんじゃないの、という感じがする(そのほうが安い値段で買えるしね)。