モリエール『スカパンの悪だくみ』
- 作者: モリエール,鈴木力衛
- 出版社/メーカー: 岩波書店
- 発売日: 2008/12
- メディア: 文庫
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「そんな計画は止めにしたほうが身のためだぜ、もう前にも言ったけれど。」
「うん、だがおれは自分の言うことしか聞きたくないんだ。」
「いったいどんなお楽しみをやらかそうっていうんだ?」
「いったい何故そんなに気をもむんだ?」
「つまらんことでおまえが棍棒で殴られるのが目に見えてるからさ。」
「だけど、痛い思いをするのはおれの背中だぜ、おまえの背中じゃないよ。」(87ページ)
ジプシー娘に惚れたレアンドルと、貧しく美しい娘に恋して勝手に結婚してしまったオクターヴは、彼らの父親であるジェロントとアルガントが、彼らを結婚させるために帰ってくると聞いて戦々恐々としていた。彼らはレアンドルの従僕スカパンの機転を頼る。
岩波文庫のモリエールの戯曲の中では『いやいやながら医者にされ』などと並んでくだらないものとの評判らしい。『タルチュフ』『孤客』『守銭奴』などの性格喜劇と比べると物足りないということか。当時でもそれは同じで、一般観衆はともかく真面目な批評家はこの劇を高く評価していないようだ。
『いやいやながら医者にされ』に比べればまだかなり質は高い。スカパンの、ジェロントとアルガントとを手玉に取るやり口は、時にわき道から攻めてみたり、時に脅迫に出たり、まったく機略縦横という触れ込みにふさわしい。結末は脱力するほどいい加減だけれどもそこは目をつむってもいいと思う。そこに至るまでの過程は面白いんだから。
まあ暇つぶし用の作品だろうけど、その用途には充分な質の作品だと思う。
ところでテレンティウスやプラウトゥスからの借用がかなりあるらしいのでそっちの作品も気になるところ。京都大学学術出版会のローマ喜劇集で読めるかな? 岩波文庫でもこのへんの作家のものを出してくれるとありがたいのだが。