ワシントン・アーヴィング『ブレイスブリッジ邸』
- 作者: アーヴィング,齊藤昇
- 出版社/メーカー: 岩波書店
- 発売日: 2009/11/13
- メディア: 文庫
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そうだとしてもなお、そのような夢を
育んだ時代にいた彼らを、
私は羨まないではいられない(301ページ)
ブレイスブリッジ家の次男の結婚式に招待された語り手が、イギリス、ヨークシャーの田舎にあるブレイスブリッジ邸に集う人々の様子を書き記していく。
ワシントン・アーヴィングを読むのは初めて。本邦初訳につられて買ってみた。
私がこの邸宅に滞在する間じゅうに、ただの一度たりとも、予期せぬ突発的な出来事が起こるとは到底思えないのだ。(16ページ)
とは序章における語り手の弁。まあ、そういうわけで地味な小説である。
屋敷やその周辺の人々の様子、そこで起きた瑣末な出来事などを、10ページ前後の章だてで語っていくという体裁。いちおう話は地主ブレイスブリッジの息子の結婚式へ向かって進んでいくわけだが、その過程では本当に些細な出来事しか発生しないし、登場人物の感情が大きく揺れるような場面もあまりない。というわけで物語的な楽しみとか心理小説的な楽しみとかを求めて読む本ではないだろう。
たぶん、イギリスの田舎に暮らす、貴族やその周辺の人々のユルい暮らしぶりや行動を、語り手といっしょにまったり生暖かく見ていく(その終焉が近いことを予想しながら。もちろん、現代ではとっくに終わっている)のがこの本の楽しみ方だと思う。
ディケンズの騒がしさとか、メレディスの心理描写とか、ああいうのに比べるとやっぱり物足りないな。