書物を積む者はやがて人生を積むだろう

和書を積んだり漢籍を積んだり和ゲーを積んだり洋ゲーを積んだり、蛇や魚を撫でたりする。

ファルク・リヒター『崩れたバランス/氷の下』

崩れたバランス/氷の下

崩れたバランス/氷の下

「あれは皆死んでるんじゃないんです、死体に見えるだけですから、落ち着いて話しかけてご覧なさい、本当です、ちゃんと答えてくれますよ……たいていきっと。(「崩れたバランス」、115ページ)

 現代ドイツの劇作家・演出家ファルク・リヒターの戯曲ふたつ。

 『崩れたバランス』は、厳寒のクリスマスイブを背景に、都市に生きる人々の群像を描く。いくつかの場面が入れかわり現れたり消えたりまた現れたりする。それぞれの場面の人物は最初無関係に見えるが、ストーリーの進行とともに彼らの関係が浮かんでくる。
 解説では「終末的」と表現されているがまったくその通りの、とても陰気なクリスマス劇。凍死体や事故死体の溢れる都市を背景に、いつまでも父親が迎えに来ない子や、いつまでも子が迎えに来ない母親や、出会い系サイトで知り合った男と男やらが不毛な会話をする。台詞回しは退廃的だが、作品の空気は耽美というよりは真剣で悲痛。既訳の『エレクトロニック・シティ』や、併録の『氷の下』に比べるとリアル路線で理解しやすい。構成も巧みな秀作だと思う。

 『氷の下』は風刺劇で、中年・二人の若手・子供の合計四人のコンサルタントが登場し、自身の企業活動などについてひたすら語る。台詞はテンポもテンションもきわめてハイなもので、『エレクトロニック・シティ』に近い。中年コンサルタントパウル・ニーマントの過去語りや、わざと飛行機にぎりぎりに搭乗するくだりなんかは分かりやすかったが、事業や人事にまつわる話は正直ついていけない。私は学生なのでね……。

 ともあれ、分量のわりに読みごたえのある本だと思う。