書物を積む者はやがて人生を積むだろう

和書を積んだり漢籍を積んだり和ゲーを積んだり洋ゲーを積んだり、蛇や魚を撫でたりする。

アルフレッド・エドガー・コッパード『天来の美酒/消えちゃった』

天来の美酒/消えちゃった (光文社古典新訳文庫)

天来の美酒/消えちゃった (光文社古典新訳文庫)

この世界には、いろんな種類の真実が生きて死んでゆくが、おれたちがめったにつかまえられない一つの真実がある。それは何かっていうと――自分の中に似たようなものがない真実さ。おれたちは、そういうものは呑み込めないんだ。(「ダンキー・フィットロウ」108ページ)

 幻想・不条理小説ふうの作品十一編を収める短篇集。最後の「天国の鐘を鳴らせ」が70ページあるほかはごく短い作品ばかり。

 表題作「消えちゃった」はフランス旅行中の夫婦とその友人が見知らぬ町で消えてしまうという話で、雰囲気は『エペペ』を思い起こさせる。おつむの足りない笛吹きが魔法で牛の病気を治す「ロッキーと差配人」はレトロな魔術描写が愉快。最後に墓場に入った者は以前の死者たちにこき使われる、という伝承に取り付かれ、急逝した姪を心配して精神を病んでいく「マーティンじいさん」では脇役の猟犬番のキャラがいい味を出している。この世の終わりが来るという噂を聞いた暦博士の冒険を描く「暦博士」は奇妙なクリスマスストーリー。
 不条理な場面や残酷で恐ろしげな場面けっこうあるわりに、さっぱりした書きっぷりで嫌味がなく、不思議と叙情的だったりもして、とても楽しく読める本。趣向が作品ごとに違っていて飽きないところもいい。