書物を積む者はやがて人生を積むだろう

和書を積んだり漢籍を積んだり和ゲーを積んだり洋ゲーを積んだり、蛇や魚を撫でたりする。

アサウラ『ベン・トー 5』

「わたくしたちが時間を稼ぎます、その間に」
「死ぬ気か!?」
 梗はただ、微笑み返すだけだった。オルトロスが地上と天空から最凶の大猪に牙を剝く。
「佐藤、前を見ろ! 奴らの好意を無駄にするな! 行くぞ!!」
「はい!」
 先輩は後方から乱戦に切り込んでいく。あのオルトロスとはいえ、相手は大猪、どれだけ持つのか。いや、そんなことは考えるな。たとえ一分でも一秒でも僕らのためにオルトロスが身を挺して稼いでくれるというのなら、僕は意識の全てを弁当に向けるべきだ。それこそが礼儀。あの四川風エビチリを手に入れる。それだけを考えろ。余計なことを考えるな! ただ進め! 突き進め!! 己の戦いに全てを懸けろ!! あの二人ならきっと――
「キャイン!!」
 ……キャイン? 何だろう、今、尻尾を踏まれた犬の鳴き声のようなものが……。(191ページ)

 夕刻のスーパーマーケットで、半額弁当をめぐって争う狼たちの死闘を描いたアクション小説の5巻目。剣道部顧問・壇堂と剣道部員たちからなる悪名高き<ダンドーと猟犬群>のいつになく早い活動開始に、主人公・佐藤ら狼たちは警戒を強める。そんなおり、佐藤の初恋の人である広部蘭が転校してくる。

 手に汗にぎるアクション描写と、いろいろと酷い(誉め言葉)ギャグとで、個人的にいま最も楽しみにしているライトノベルのシリーズの一つ。この巻はやや雰囲気が変わり、理不尽なギャグは控えめになって(おかしな台詞や独白で笑わせるシーンはそこそこあるが)、まっとうな青春小説らしい部分が増えている。特に佐藤の広部に対する、《変態》らしからぬ真剣な感情はとても丁寧に書き込まれていて良い感じ。まあ終わりのほうはちょっと説教くさくなって興ざめな部分もあるが、エンターテイメントにはありがちなことなので仕方ないか。
 この巻の最萌えキャラはホブヤーだと思う。あのダメっぷりが良い。仮にも二つ名持ちなわけだが、今後すこしでも弁当争奪戦で活躍する場面が描かれることはあるのだろうか。
 戦闘場面の描写の熱気と食事シーンの香気は相変わらず本物である。その点は変わらずこの作品の真骨頂。