書物を積む者はやがて人生を積むだろう

和書を積んだり漢籍を積んだり和ゲーを積んだり洋ゲーを積んだり、蛇や魚を撫でたりする。

プロスペル・メリメ『シャルル九世年代記』

シャルル九世年代記 (岩波文庫)

シャルル九世年代記 (岩波文庫)

その返事はお前の答じゃないぞ。(70ページ)

 サン・バルテルミの虐殺を扱った歴史小説。新教の若き貴族ベルナール・メルジーは、新教の大将であるコリニー提督に助力するためパリに上り、パリの風習を見聞し、恋と決闘を体験する。また旧教に改宗した兄のジョルジュと会う。やがてサン・バルテルミの虐殺が勃発、兄と愛人の助けを借りてからくもパリを逃れたメルジーは、ラ・ロシェルの新教軍に加わる。

 話がさくさくと進んでいくので退屈はしないけど、歴史ロマンスとしてはかなり物足りない本。若く情熱的な弟と冷静で理知的な兄、そして敵味方に分かれる兄弟、という図はいまやメロドラマとしては定番すぎて何の新鮮さもない。何のいわれもなく主人公に惚れる貴婦人といい、決闘でさっさと倒れてしまう恋敵といい、恋愛描写も微妙である。筋の展開は一本道だし、結末も放り投げ感が強い。メリメの小説の中ではもっとも長い作品だそうだが、しかしそれでも題材に対して分量が不足してる気がする。
 『三銃士』のような、曲折に富んだ歴史ロマンスに比べるとかなり引けをとっていると思う。