ホセ・エチェガライ『恐ろしき媒』

- 作者: ホセ・エチェガライ,永田寛定
- 出版社/メーカー: 岩波書店
- 発売日: 1988/01/01
- メディア: 文庫
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しかし、世間の陰口は、唆す者のあるなしで、悪意のも悪意でないのもありましょうが、よしや始めは嘘にしろ、終りは本当になるものだ、とわたしは覚ったのです。(45ページ)
三幕の悲劇。ドン・フリアンとその若妻テオドーラは、フリアンの恩人の遺児にあたる青年エルネストを親しく養っていた。彼らの間に存在していたのは友情のみであったが、世間の噂はエルネストとテオドーラの親密な間柄を取り沙汰するようになる。
ベナベンテ『作り上げた利害』がよかったので、訳者つながりで読んでみた。作者は19世紀後半スペインの劇作家で、1904年にミストラルとともにノーベル文学賞を受賞している。この戯曲は1881年の作。
たいした悪意もない世間の噂、舞台には登場しない「その他大勢」の口が、善良な三人の男女を破滅させるという主題は、当時はともかく今読むには目新しさはないかもしれない。ただその主題の結末として、「世間」が火のないところに煙を立たせる、実際にはありもしなかったことを当人たちにとってさえ事実にしてしまう、という展開を用意したのは作者の独創的なところだろう。
ときどきセリフが装飾的になるが、あまり展開の邪魔にはなっていない。というか、リーダビリティは高めであると思う。後半の展開も早く、面白く読める。