書物を積む者はやがて人生を積むだろう

和書を積んだり漢籍を積んだり和ゲーを積んだり洋ゲーを積んだり、蛇や魚を撫でたりする。

谷川流『涼宮ハルヒの驚愕』

 四年半のブランク? よくあることですよ。

世界がどうなったところで、僕もキミも何も変わらないと断言できる。変わるのは未来さ。(……)なあに、現代人である僕たちが気に病むことはない。(下巻74ページ)

 エキセントリックな美少女涼宮ハルヒ率いるSOS団の日常と非日常を主人公キョンが饒舌な語りで語るライトノベルSFシリーズの第十巻。シナリオは前巻『涼宮ハルヒの分裂』の続きになっており、キョンを「先輩」と呼ぶ謎の少女から電話がかかってきたαルートと、佐々木から電話がかかってきたβルートが同時に進行する構成になっている。αルートではハルヒが新入団員募集に邁進するなど平穏な日常が続くが、βルートでは長門が倒れ、キョンが口の悪い未来人藤原、異質な宇宙人周防と対決するシリアスなシナリオが展開する。

 思った以上に深刻な状態の長門を見舞った後、帰路で周防と対峙するという『驚愕』冒頭のシーンは「いきなりクライマックス」というにふさわしい盛り上がり(それにしても、周防のビジュアルデザインは、『分裂』の時点ではコレはいかがなもんだろうと思ったのだけれど、『驚愕』上巻の口絵ではずいぶん美人に描かれていて驚いた。しかもけっこう怖い。のいぢさんは小冊子のほうで「手に馴染んできた」とコメントしている)。キョンが藤原に抱く敵愾心は相当なもので、ともすれば暗い方向に話が進んで行きそうになるが、そこを佐々木がうまくひっかきまわしたり、ハルヒが日常部分をしっかり守ってくれたりするために、どうにか余裕が守られる。というわけで、読者としてはキョンの素直じゃない語りをニヤニヤしながら楽しめばよい。
 ブランクはあったがいつも通りの『涼宮ハルヒ』シリーズの空気である。ただ、ハルヒがすっかりかわいい子になってしまったのはちょっと残念な気もする。もはやツンデレ成分はキョンに期待するほかない。