書物を積む者はやがて人生を積むだろう

和書を積んだり漢籍を積んだり和ゲーを積んだり洋ゲーを積んだり、蛇や魚を撫でたりする。

ボーマルシェ『セビーリャの理髪師』

セビーリャの理髪師 (岩波文庫)

セビーリャの理髪師 (岩波文庫)

「怠け者で、ふしだらで。」
「召使にあれこれとご注文なさるぐらいなら、御前さまは、下僕にふさわしい立派な主人をたくさんご存知でいらっしゃいますか?」(16ページ)

 スペインの貴族アルマビーバ伯爵は、プラドで見かけた美少女ロジーヌに恋する。手をつくしてロジーヌの身元を調べた伯爵は、彼女がセビーリャにいて後見人のバルトロに幽閉同然の扱いを受けていることを知る。バルトロはロジーヌを閉じ込めておいて、時がきたら彼女と結婚しようと企んでいた。伯爵は理髪師フィガロとともにロジーヌに近づく手管を思案する。

 隠された美女と、明らかに釣りあいがとれてないのに彼女と結婚しようと企てる陰険な初老男。美女に惚れ込み身分を隠して彼女に近づこうとする貴族に、彼の手助けをする機転のきく庶民男。なんとなく既視感ある設定……というか、恋愛喜劇の王道ド直球の設定である。
 面白いよ、ということのほかに、特に書くことを思いつかない。あと言い足しておくことといえば、フィガロの台詞が独白においても対話においても切れまくっていて楽しくて仕方ないということ。それから敵役のバルトロが間抜けな老人ではなく簡単に騙されない手ごわいやつに設定してあるので、シナリオの展開にいい緊張感が生まれていて結末まで退屈せずに読めるということ。そのぶん、ヒロインのロジーヌがいささか頭が軽く見えるところは残念かな。