ルイジ・ピランデッロ『月を見つけたチャウラ』
月を見つけたチャウラ―ピランデッロ短篇集 (光文社古典新訳文庫)
- 作者: ルイジピランデッロ,Luigi Pirandello,関口英子
- 出版社/メーカー: 光文社
- 発売日: 2012/10/11
- メディア: 文庫
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この寝返りプロレタリアートめ!(「パッリーノとミミ」35ページ)
ピランデッロを読むのは初めて。戯曲『作者を探す六人の登場人物』が有名なので、なんとなくメタフィクション傾向の強い作家だと予想していたのだけれど、読んでみるとそうでもなくて、どちらかといえば精神、心理のあり様を記述することに重きを置いている印象。
解説によると、作者は父の経済的な失敗と妻の精神疾患を抱え、家庭的にはかなり辛苦を味わったとのことで、その事情をふまえて作品を読むと、なるほど、むべなるかな、と思えるような人物が数多く登場する。破滅した男、自殺志願者、狂気を秘めた人物。これらの人物の鬱屈、閉塞感、現実からの遊離感を、作者は細密に記述していく。それでも諧謔を忘れないのはさすがで、窮迫絶望の空気と笑いの要素が奇妙に混在している。
なかでも傑作だと思ったのは「すりかえられた赤ん坊」。愛らしい赤子が一夜にして醜い怪物に変わる。語り手は小児麻痺かなにかでそんな風貌になってしまったのだと考える。しかし母親は自らの子がさらわれ、すりかえられたのだと信じこんでいる。思い余った母親は、近隣で「魔女」だと思われている人物に相談に行く。魔女が母親に与えた助言……については立ち読みなりなんなりで確認してほしいが、「魔女」による鮮やかな解決とその後の苦い結末に、二度うならされることは必至。