書物を積む者はやがて人生を積むだろう

和書を積んだり漢籍を積んだり和ゲーを積んだり洋ゲーを積んだり、蛇や魚を撫でたりする。

カルロ・ゴルドーニ『珈琲店・恋人たち』

「なんでまた他人の事を年中喋りまくるのだろう。」
「それはあの方はお頭がごくごく小さいから、自分の事は考えられない。それで年中他人の事ばかりお考えになるのです。」(「珈琲店」、42ページ)

 「珈琲店」はその名の通りコーヒー店に集まる人々が巻き起こす騒動を描いたコメディ。
 賭博にのめりこむ御曹司、彼から金を巻き上げる偽貴族、身分を隠して現れ彼らを正道に引き戻そうとする妻たち、偽貴族と交際中の踊り子(彼が妻帯者であるとは知らない)、噂好きの紳士、コーヒー店の店主らが登場し、どたばた騒ぎを繰り広げる。
 身を滅ぼしそうな若旦那と、彼を食い物にしようとする連中、逆に彼を救おうとする人々――という構図だけ見ると単純だが、登場人物に嘘つきが多い(身分を隠したり仮面をかぶったり)ので、物語は素直には展開していかない。特にドン・マルツィオという怪人物は、噂好きの軽口男といった領域を超えており、やたらと憶測で物事を話し、ほかの登場人物たちに誤解を与え、物語を引っ掻き回す。古典喜劇らしく最後には落ちつくべき形に落ちつくものの、そこに至るまでのはちゃめちゃ・二転三転ぶりが読んでいてとても楽しい。
 「恋人たち」は些細なことで傷つき、相手を傷つけるお馬鹿な二人が巻き起こす珍騒動。主人公たちはお互いにべったり惚れ込んでいるくせに、顔を合わせれば罵り合ったり皮肉を言い合ったりして、周囲の人々に気を揉ませる。

「ああ、その訳ならすぐ見当がつきますわ。二人で喧嘩なさったんですよ。」
「そうかもしれぬ」
「喧嘩をなさったのなら、仲直りなさるにちがいありませんわ」
「そう簡単には参らぬ。」
「今まで何度も仲直りなさいましたもの。」(219ページ)

 家族も友達にもメイドにも主人公二人の恋愛沙汰はバレバレで、皆で二人をどうにかくっつけようとするものの、肝心の当人たちは毎回毎回、些細なことで頭に血を上らせては別れる話ばかりしている。悪意の人が一人も登場しないというのになかなかうまくいかない。ツンデレが登場するラブコメディが好きなら最初から最後までニヤニヤできるはず。


 古典文学に対して、人生に対する示唆や教訓を求めている人にはおすすめしない。面白い読み物を探している人向け。