ゾラ『生きる歓び』
タイトル見た瞬間、あぁこれは生きる苦しみの話なんだなということが察せられる。
叢書第12巻。パリの肉屋の娘ポリーヌ・クニュは十歳で両親に先立たれて孤児となり、多額の遺産を抱えたまま漁村ボンヌヴィルの親戚シャントー夫妻にひきとられる。成長したポリーヌはシャントーの一人息子ラザールを愛するが、ラザールは飽き性のペシミストで、様々な事業に手を出しては失敗する。ポリーヌはラザールの事業に資産を”貸し”続けた結果、そのほとんどを失ってしまう。さらにポリーヌの財産に手を付けたうしろめたさから、シャントー夫人ウージェニーはポリーヌを憎むようになる。
病気に苦しむ養父シャントーを介護し、資産不足に悩むシャントー夫人を(憎まれながら)助け、意思の弱さと死の恐怖に苦しむラザールを励まし、いつもピリピリしているメイドのヴェロニックと折り合いをつけて、ポリーヌはシャントー一家を切り盛りする。ラザールがシャントー家の友人の娘ルイズと結婚したのち、ポリーヌはルイズの難産を救い、二人の息子ポールに将来の希望を託す。
第3巻『パリの胃袋』は「太っちょと痩せっぽちの戦い(『制作』主人公クロード・ランチエ談)」の話だったけど(だいぶ記憶があいまい。もう読んだの十年前だもの)、こっちは太っちょ代表リザ・マッカールの娘ポリーヌが肉を食われてしまう話ってところだろうか。でも根っこが太っちょだから簡単には参ったりしないのだ。たまにマッカール家の血が発動して暴力的に逆上したりはする。
まっとうな主婦だったシャントー夫人が、息子への愛と、そこにある養女の大金という状況から、ちょっとずつ金を拝借することに抵抗がなくなっていく様子、それでも良心は咎めるもんだから、逆にポリーヌに対して険悪になっていく様子の描写はなかなかに意地が悪い。
面白いのはいつもカリカリしてるメイドのヴェロニックのキャラクター立て。どいつもこいつもいい加減なシャントー家で唯一「正義」を体現してるのがヴェロニックで、ポリーヌに対して不当にふるまうシャントー夫人に怒り、シャントー夫人亡きあとは万事譲りすぎなポリーヌに対して怒り……マジメな読者のイライラを体現しているかのよう。というか、たぶんこのメイド、読者の代理人なんだろう。だからメイドの死とともに小説が終わってしまうんじゃないか。
諦めて譲って流されて、四苦八苦を体現するような人物ばかりまわりに侍らせて、金も恋も青春も失っても、人生は続いていくし、まぁ、幸せな日だってあるよな。